日々是、徒然に愚問自答

生来の小心者なのか、単に暇なのか、、、、日々悶々と悩みや疑問が浮かびます。しかしながらその大半は取るに足らないことで、人様の貴重なお知恵と時間を拝借するのもはばかれます。そのため、自ら産んだ愚問には自ら答えて始末をつけようという試みです。通勤電車等でご賞味くださいませ。

愚問小説「天職にいちばん近い島⑦仕事はドラマチックであるべきか?【後編】」

(前編の概要)

ある日曜日、僕は高校時代の友人である堂田から、大企業⇒ベンチャー(当人曰くスタートアップ)への転職報告を受けた。そのときの「ドラマチックな人生がいい」という堂田の言葉にモヤモヤした僕は、ケイコさんに質問してみようと思ったのだが…

https://piropiro2000.hatenablog.com/entry/2020/05/24/104618

 

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時計の針は午後8時を指していた。

日曜の夜。
数カ月前の僕だったら翌日からの一週間が憂うつで仕方がなかっただろう。
いまは休職中のため、そういった胸を突き刺すような憂うつはないが、一方で『いつ自分は以前のように働けるようになるのだろうか』というヌメリとした重たい不安を感じる


今日の昼に思った疑問をもとに、ひととおりケイコさん宛のメールを書き終えた後、僕は送信ボタンを押すのを迷ってしまった。
というのも、書いたメールを読み直すと、うつで休職中の僕がキャリアアップする堂田に嫉妬しているように見えて、なんだか自分がすごくイヤな人間に思えたからだ。

また、僕が質問すればケイコさんが答えてくれることに、甘えている気もする。
第一、彼女は明日から仕事なのだ。リラックスしたいだろう。

 

僕はメールの下書きを削除し、ノートとペンを取り出した。

僕のモヤモヤはどこから来たのだろう。

おそらく一般的な感覚としても、ベンチャーやスタートアップの方が大企業より仕事がドラマチックな気がする。

これは『事業や仕事内容の変化が大きい』ということだろう。
急成長することもあればいきなり倒産することもある。今やっている仕事が数カ月後には事業をたたんでいて、違う仕事を担当している可能性もある。

僕はノートに線を引っぱって『事業や仕事内容の変化 大⇔小』という横軸を描いてみた。

 

ただ、それだけだろうか。
逆に言えば、『事業や仕事内容がそれほど変わらない会社にドラマはないか?』ということである。
これについて『ある』と思うのだが、それが何だかハッキリとしない。

 

『働く』ということは、事業や仕事内容だけか…。。。

 

いや、もう一つ大事な要素があった。
むしろこっちの方が大切という人もいるかもしれない。

 

そう、『職場の人間関係』だ。
そこで僕は『人間関係の変化 大⇔小』という縦軸を描き足した。

 

うん、なんだかケイコさんが書く図のようになってきた。

 

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 自分で書いた図を眺めながら、考えを深掘りしてみる。

うん。縦軸の人間関係というのは仕事のドラマ性においては重要そうだ。

例えば左上のように、仕事の中身は変わらなくても上司や同僚が半年や1年ごとに変わるなら、それは1つのドラマだろう。こういう会社は人が変わっても仕事が回るようにできていて、逆に人間関係の要素が職場でのドラマ性に大きく影響しそうだ。

一方、右下のように、人間関係は変わらないけど安定期な売上がないため毎年・毎月頑張る!という場合もある。こういう会社は皆で結束することがドラマチックなのだろう。

左下のような仕事・人間関係ともに変わらない…という組織もあるだろう。こういう場合は、変化が少なくてほのぼのとしてそうだ。

そして右上、おそらく堂田の転職先のようなベンチャー・スタートアップはこのタイプだろう。事業がすごいスピードで成長して、人の出入りも激しい。むしろ、人が出たり入ったりしながら仕事内容がどんどん変わっている、という感じだろうか。

 

ここまで考えてみると、左下を除けば大体の場合において何かしらドラマチックな出来事はありそうだ。

堂田の場合は左上から右上への転職と言えるだろう。すると、決してドラマ性の有無というより、『好み』の問題だ。

 

そうだ。
仕事でどんなドラマ性を求めるか…、もっと言えばドラマを求めるかも含めて、すべては好みであり良し悪しではない

 

そう考えると、僕は決して右上のような大きな変化を望むような性格ではない。

いま僕がいる会社は規模が大きいので採用・異動でそれなりに人の出入りはある。
一方で、機械を売る、という事業は創業から何十年経っても変わらず、おそらく左上のタイプと言えそうだ。

僕は『自分が仕事ができないから、上司や先輩といまいち打ち解けられていない』と思っていたが、上司や先輩もいずれ異動するのだからこの世の終わりのように考えなくてもいいのだ、と思えてきた。

 

あと、仕事に関する好みや考え方は自分と違うけれど、新しいチャレンジをする堂田も応援しようという、素直な気持ちになった。
これは好みの問題であって優劣や嫉妬ではない。対等な関係からの応援だ。

 

ノートに色々書いているうちに心が落ち着いてきた。
こうやって、心のモヤモヤに対して客観的に自分の立ち位置を整理する、ということができれば、会社に戻ってからも不安やストレスに押し潰されることは少なくなると思えてきた。


来週、クリニックに行くから先生に今日の気付きを話してみよう。

そして、ケイコさんにもこの話をしてみよう。

 

その夜、僕はかなり久しぶりに心から穏やかな気持ちで眠れた。