愚問自答「優秀な人材が日本企業に息苦しさを感じるのはなぜか?」
米国にMBA留学している友人から「日本企業(延いては日本社会)に息苦しさを感じる」というコメントをいただき、インスパイアされました。
ということで本日の愚問自答は「優秀な人材が日本企業に息苦しさを感じるのはなぜか?」です。
※ちなみに「優秀」の定義は人それぞれですので、一旦は僕的にいうところのハードスキルがやたら高い人とご理解いただければ。
ハードスキルについては過去の愚問自答をご参照ください
https://piropiro2000.hatenablog.com/entry/2019/01/30/201046
友人のコメントの背景には、友人ならではのキャリア観や米国での体験知があると思いますが、僕自身も何度か米国に出張に行くなかで毎回「やっぱり米国はいいな」と思うので、自分なりの見解で記してみます。
※この愚問を深掘れば比較人類学や地政学まで行き、それはそれで面白いとは思いますが、いかんせん門外漢なため、基本的なアプローチは僕自身の専門である、「事業戦略と組織機能・人材」をベースとします。
「日本企業の息苦しさ」は、海外経験のある方も、ない方も、一度は感じられたことがあるかと思います。
僕なりにその要素を分解すると、以下の2点になるかと考えます。
1.社内での不自由さ
2.社外に出るときの不自由さ
つまり、「居るのも苦しい、かといって出づらい」という八方塞がり感があり、それは確かに「やってられっか!」とプッツンしたくなります。(若い方やナイスミドルは尚更でしょう)
1.社内での不自由さ
愚問自答で何度か登場しますが、J.アベグレンの言う日本的経営の三種の神器(終身雇用、年功序列、企業内労働組合)は、「仲間意識の醸成」において、かつては機能しましたが、今や企業・従業員の双方にとって"お荷物"になりかけています。
当時の日本産業のコンセプトは「欧米の製品・サービスをヒントに、より安くて品質の高いものを、集合知・すり合わせによって実現する」というもので、ビジネスモデル的に共同体意識が必要だったため、三種の神器が有効でした。
このシステムは長期的成長には効果がありますが、短期の競争においてはあまり有効ではありません。
短期の競争環境下では「いまの戦略においてベストな組織機能・人材を揃えること」が重要であり、そうすると外部から「いま活躍する人材」を採用し、内部の「当面活躍しない人材」に退場いただくのが経済合理的と考えます。(米国企業はこの割り切りがすごい)
短期の競争環境下で、チームをガラガラポンするときに「共同体意識」が非常に厄介なものになります。
ビジネスモデル上、三種の神器が恒常的に有効であれば継続するとよいと思いますが、有効でない企業にとっては、トランスフォーメーションの阻害要因でしかありません。
そして、短期・長期の観点は、企業戦略としての成否に限らず、個人のキャリアにも言えるのではないでしょうか。
つまり、個人としても「10年後に活躍できればOK」という人もいれば、「ここ2〜3年が勝負!」という人もいます。
前者の場合は、三種の神器システムがフィットしますが、後者の場合は短期的成長におけるベストメンバーに入り込む方がフィットすると思われます。
そして、優秀な人材の中には後者を志向する人もいて、優秀な人材が日本企業に息苦しさを感じるのだと思います。
これは1980〜90年代でも社費のMBA留学生が外資系企業に転職していることからも、昨今の経済情勢云々というよりは、日本的経営システムと短期的活躍志向のアンマッチ性に起因すると考えます。
日本的経営システムの恐ろしいところは、「あたかもそれがアイデンティティであるかのように」「無意識のうちに刷り込まれること」です。
未だに「終身雇用や年功序列は日本の文化」くらいのことを言う方にたまにエンカウントするので驚きです。(しかも企業規模、業種、地域、年代限らずいる。まぁ単なる勉強不足なだけですが)
では、日本企業がなぜ未だに過去の日本的経営システムにこだわるか、または抜け出せないか、という点については、バートレットとゴシャールのグローバル企業の組織モデルである程度説明がつきますが、その説明だけでモーレツな長文になるので一旦割愛。
長くなりましたが、長期雇用による長期成長を前提とした企業において、短期的活躍を望む人材が居心地の悪さを感じるのはある程度必然と思いました。
2.社外に出るときの不自由さ
上述のような背景から「やってられっか!」と思った優秀な人材が、社外に出やすいわけでもないが考えものです。
まず、脱出先候補である日本企業がイケてない。
とりあえず日本企業の多くは中途採用がものすごく苦手、というか慣れていないため、
・求職者にとって魅力がない
・仮に採用しても短期間で愛想を尽かされる
という事態が生じます。
僕自身、かつて中途採用面接で「当社で数十年、どう貢献してくれるか」と聞かれ、「このご時世に滅私奉公かっ!僕のキャリアはお前らの所有物じゃないぞ」と思い、速攻で辞退した記憶があります。
全ての日本企業ではありませんが、中途採用を「社内人口ピラミッドの補填」くらいで実施している会社が多く、そうなると優秀な人材にとって魅力がありませんし、万一入社しても短期間で「やってられっか」が再発すると思われます。
個人的な所感では、そうは言っても最近は機能強化的な意図で中途採用をしている日本企業も増えているので、徐々に優秀な人材の門戸も広がりつつあると思っています。
※ちなみに人口ピラミッドの補填か、機能強化かは、求人票ないしJob Descriptionを見れば2分で判定可能です。
また、意外に悩ましいのが退職金です。
iDecoになりポータビリティが高まりましたが、それでも長期勤続インセンティブが働くような退職金制度もまだ多く残ります。
元々、退職金制度ってそういうものであるのでこれは仕方ないことでもあります。
以上のように考えると、日本企業がダメダメなように思えますが、僕としてはあくまで「好み」の問題と思っています。
僕は外資勤務経験もありますが、外資は外資で決してパラダイスではないです。
要は一長一短で、冒頭のようにハードスキル高めの人材にとって、日本企業の人事管理がフィットしなくなったということと思います。
反対にスーパースターがいなくても仕組み化によってトップに君臨する伝統的日本企業があるように、要は事業戦略と組織機能・人事がフィットしていることが大事と思います。
そう考えると、いまの日本企業のビジネスモデル的にはそもそも優秀な人材は不要という気もしてきました。
個人的には伝統的な日本の大企業の方々は、一人ひとりは聡明で頭良いと思うのですが、パーツの仕事しか担当できないから才能を持て余している感はあります。
結論:三種の神器システムは短期的成長を望む優秀な人材にはフィットしない。
反対に日本企業に優秀な人材が必要なのかも怪しい。
優秀な人材は当面は外資系でキャリアを積むのが良さそう。